日本中の注目を集めた脳死移植。その渦中で大きな役割を果たした、航空機による臓器搬送について紹介したい。
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| ●今回の脳死移植でチャーターされた中日本航空のセスナ560 サイテーションV。【ご協力:中日本航空株式会社】 |
脳死状態の臓器提供者から摘出した臓器を移植するには、限られた時間内に処置を施すことが必要となる。心臓の場合、移植までのタイムリミットは約4時間といわれている。脳死状態の提供者がどこで発生するか判らず、また移植を望む患者の入院する病院も全国にわたるとなれば、航空機を利用しようという発想は、誰もが考え得ることだろう。
阪神大震災以来、ヘリコプターを利用しての防災活動への関心が高まり、一般に防災ヘリコプターと呼ばれる機体は平成10年度末の時点で、42都道府県に66機が配備。未配備は5県のみである。配備の進展と供に、その活用法についても研究が進み、急患輸送や空中消火、情報収集といった手法が確立されつつある。また航空機の特性を活かした広域応援体制についても整備が進んでいて、今回のような連携を要する搬送業務にも、対応可能な体制が整いつつある。
実際に昨年の10月23日には生体肺移植を必要とする患者を、長野から岡山まで、2機の防災ヘリを乗り継いで空輸した事例もある。この時は長野防災と岡山市消防局の機体が、約4時間半をかけて空輸している。このような事例は他にも何件かあり、単に空輸という面だけに注目するなら、対応能力は十分に備えているといえる。
民間からチャーターされた固定翼機についてはどうだろうか?
今回は中日本航空のセスナ560 サイテーションV(JA119N)が、その任にあたった。同機は一昨年の10月、日本臓器移植ネットワークと連携したシュミレーションを実施。松本〜丘珠〜伊丹のルートで、医師らを乗せて飛行した実績がある。これは当時、施行直前だった臓器移植法を見据えて行われたもので、同社にとってみれば、準備万端整えた上での初ミッションとなったわけだ。
それでは、今回の臓器搬送について時系列に従って紹介しよう。
| 10:15 |
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松本市で信州大学病院の5名が長野防災ヘリ(アルプス)に搭乗。名古屋空港へ。 |
| 11:19 |
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信州大学チーム名古屋空港着。 |
| 11:45 |
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信州大学チームが搭乗した中日本航空のサイテーションVが高知に向け出発。 |
| 12:40 |
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信州大学チーム高知空港着。 |
| 17:40 |
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高知県防災ヘリ(S-76B JA6759 りょうま)に摘出された心臓が載せられ、高知空港を離陸。 |
| 18:30 |
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りょうま、大阪空港到着。 |
| 18:42 |
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中日本サイテーションが肝臓を乗せ、松本空港向け出発。 |
| 19:38 |
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中日本サイテーション松本空港着。 |
先にも述べたとおり、臓器移植は摘出後の臓器の保存性の問題から、時間との勝負となる。サイテーションVの巡行速度は約400Kt、S-76Bは約120Ktである。結論から言えば、妥当な選択だったと思われる。これは単に速度だけの問題でなく、混雑する空域を通過するにあたっての運航の柔軟性であるとか、山岳地帯を越える必要性(与圧装備の有無が、大きな影響を与えると想像される。)といった点が考慮されなければならず、特に長距離のフライトでは、ジェット機の持つ速度性能が、いかんなく発揮されることとなる。臓器の空輸時間がどちらの場合も約1時間というのは、注目すべき値だと言えるだろう。
読者諸兄は「直接、病院に着陸できるようにすればよいのに」と思われるだろう。もっともな話である。人気テレビドラマ「ER」で、患者を乗せたドーファンが、病院の屋上に設置されたヘリポートに着陸して、機体から降ろされるやいなや、待機していたドクター達が処置を施しながら患者を運んでいく場面を、ご覧になった方も多いだろう。日常的にヘリによる急患輸送を実施している欧米と違い、我が国では、このような取り組みは、まだ始まったばかりだ。航空法などの絡みもあり、また受け入れ側となる病院の施設の問題などもあり、簡単にはいかないのが現状だ。しかしながら、取り組みは始まっている。少なくとも、物事をよい方向に持っていこうとする姿勢だけは感じられる。
その一例が松本空港で見られた。松本空港は本来、運用時間を17:00までとしているが、このミッションに対応するために、運用時間を延長する特別措置をとった。運ぶ側だけでなく、受け入れる空港も、積極的な支援体制で事に望んだわけだ。
ひとりのドナーからはさまざまな臓器が提供される。これはつまり、空港に外来機が集中することを意味する。今回受け入れ基地となった高知空港には、外来としては中日本航空のサイテーションが飛来しただけだったが、(報道各社の機体は勘定に入れていない)場合によっては、3〜4機が一度に飛来することも考えられる。このような場合の支援体制についても、今後検討が行われることだろう。特に医療関係者や報道関係者が交錯する機体周辺での安全確保等、やってみて初めて判る類の問題もあるはずだ。今回、医師団が病院から直接航空機に搭乗することができたのは、肝臓の摘出に向かう信州大学のチームが、同大学のグランドから長野防災機でピックアップされた一例のみであったが、今後、臓器提供者側の病院に、直接ヘリが乗り入れることになれば、こういった問題はより深刻になってくるだろう。
都合のよい話ばかりではないのも、事実だ。航空機を運航させるには費用がかかる。山岳遭難で捜索救助のために民間の機体をチャーターすれば、1時間当たり70万円はかかるという。過去に日本臓器移植ネットワークが行ったシュミレーションからも、小型ジェット機で1時間あたり70万円、ヘリでは100万円もかかるとされた。今回空輸されたのは心臓と肝臓だが、その輸送費用だけで約300万円の負担となるとのことだ。健康保健などによる補助など、今後改善すべき点は多い。
日本における航空機を用いた医療サービスは、これまでも離島からの急患輸送などで実績をつんできている。しかし、システムとして構築は、まだまだこれからのように思われる。関係者の努力も当然だが、一般市民からの理解と応援が、何よりも必要なのではないだろうか。
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